おとがいにかけられた指。
促されるように唇を開き、ひとつ、ふたつ、声を零す。
少しずつ高くなっていく音。
震えないように。途切れないように。
悦い声で歌えたら、優しい指が唇をなぞって褒めてくれる。
いつだって。
そして今日もまた。
喉を震わせた声の最後の余韻が消えた後、唇の中央を押さえる親指の感触が、「よくできました」の印として落とされる。
------満足してもらえたみたい。
雰囲気からそう察してはいても、まだ安堵はできない。
瞳を開き、目の前にいる彼の優しい微笑みを見るまでは。
「------どうだった?」
問いに答えて青い瞳が細められる。
合格だ。
メイコはようやく肩の力を抜いた。
その拍子に楽譜まで取り落としそうになり、慌てて持ち直す。
かかりつけの調律師------カイトは、くつくつと喉を鳴らして笑った。
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